写真における自分らしさは気にしたことがないと言うが、ストリート・カルチャーを背景にした感性、独自のグラフィカルな目線は、その写真にも現れている。写真を使ったアートピースもあり、そこにはテーマやメッセージが込められており、写真作品とはまた違う魅力がある。今年2025年から、音楽レーベルの1%が立ち上げたクリエイティヴ・エージェンシーの1% PLUSに所属することとなり、今後のさらなる活動が注目される。ここではRyusei Sabiの作品とインタビューを紹介したい。
渋谷で育ったストリートのバックグラウンド
SiiiCK 地元は東京ですか?
Ryusei Sabi 渋谷ですね。小学校の近くに伝説のライターばかりの壁があって。それを見ながらストリートを好きになったというのはありますね。あと、当時そこでは小学生に運びをさせるのが流行ってたんです。警官が標本を見せながら、「こういうのは受け取らないでください」って言うんです。だから当時からわかってましたね。それに、あの辺は月曜の朝になると地獄で。酔っ払いがいたり、つぶれてたりするのは当たり前なんです。ハロウィンの翌朝の掃除は僕らの地区が担当なので、小学生が全部掃除するんです。そういう大人のグチャグチャなところを見て育ちましたね。親もスタイリストなので、一般企業に就職するという考え方は最初からなくて。ただ、親がこいつは変な道に行っちゃうんじゃないかと思って、中学は比叡山の中高一貫校に入れられるんです。仏教校で、生徒手帳の裏に般若心経があって、遅刻すると写経をさせられる。体育会系だったし、最初にいいクラスに入ったらずっと最下位で。そこで俺は勉強ができないんだというのがわかって。写経も歴代最高に書かされました。中3の思春期になって、個性を出したい、おしゃれしたいと思って、表参道の美容室に髪を切りに行った時に、校則にはないツーブロックだったら行けんじゃない?と思って。レッチリがめっちゃ好きで、ヴォーカルは髪を全部片方に流してたので、それを短めでやろうと思って。片方の髪は超残して、もう片方はめちゃ刈り上げてる髪にしたんです。それで学校に行った日に、担任の先生に呼び出されて。「うちは奇抜な髪がダメだから校則を作ってるのに、全部クリアした奇抜な髪をしてきたのは、おまえが初めてだ」って言われて。「とりあえず一番短いところに合わせなさい」って言われたんですけど、それをやったら坊主になってしまうから、絶対に嫌で。「坊主になるぐらいだったら、僕、高校に行きません」って言って。その時に私立の私服の学校が二次募集してたので、そこでやっとファッションに敏感な子がいる学校に入れたんです。
SiiiCK 高校は楽しかったですか?
Ryusei Sabi めちゃ楽しかったです。入学したら僕らの学年は全員ジーパンが太くて、スケボーを持ってて。DGKとかSpitfireを着てるんですよ。めちゃストリートで、聴いてるのがキングギドラ、MSC、Flatbush Zombiesとか、そういうのを誰も聴いてない時代に聴くのがカッコ良くて。当時流行ってたスキニーにも逆行してたし、大衆とは違うことをしたい人たちだったんです。昔のヒップホップを聴いて、ブーンバップ系に行った時に、自然と$MOKE OGとかと遊ぶようになって。R Loungeで一緒に遊ぶ仲間たちに出会ったんです。僕は運動がまず好きじゃないので、スケボーはダメで。音楽はそもそも興味がなくて。フリースタイルはやらされてたけど、楽しくなくて。自分はストリート・カルチャーの中で何が好きなんだろう?ってなった時に、俺はグラフィティが一番好きで、ライターをやってたんですよ。周りにもライターのヤツらは多くて。一緒に動いてたのが大阪のSPYDで、大阪にもよく行ってたんです。大阪で一二三屋に行った時にタカくん(WILYWNKA)にも会ったりしてましたね。SPYDと仲のいいMCReyってヤツもいて。当時は「高校生RAP選手権」が全盛時代だったので、そこに出てたヤツらが東京と大阪合同のクルーを組んで。そこにアートワークを作る担当で入ったんですよ。未成年なのでライヴに入れないんですけど、クルーなら一緒に行けるじゃん、しかもリストバンドがもらえるじゃんってなって。池袋のBEDで働いてる友達がいて、レギュラーのイベントがあったので、そこにも行って。みんなからひたすら学びながら、縦社会、ストリートを学んだのが一番の入り口ですかね。
SiiiCK 普通のラッパーよりも全然面白いバックグラウンドですね(笑)。
Ryusei Sabi 大学には行かずに、1年間そのままずるずると遊んでたんですけど、さすがにまずいなと冷静に思って。浪人生として美大に入るかどうするかを考えた時に、美術を学ぶ学校って何?ってなってしまったんですよね。予備校に通ってたので、絵の描き方とかコツは教わっちゃうんですよ。美大に入って学ぶことなんてないんじゃないか?ってなった時に、オープンキャンパスで教授と会う機会があって。その話をしたら、「横のつながりが卒業後にスゴい力になるから」という話をされて。金を払って横のつながりは要らないなと思って。だったらもっと面白いことをしようと思って。中二病なので、アメリカとかに行ったらおもろいんじゃない?みたいになって。行動力だけは自信があったので、最初は親の友達のコネもあったLAに住んだんですけど、LAで一緒にいたのがコンプトン周りの本当のギャングだったんですよ。ちょうどその年にケンドリック・ラマーが『DAMN.』を出したので、コンプトン、カッケエってなっちゃってて。でもコンプトンにギャングと一緒に住んでたのが親の友達にバレて、親にチクられて。さすがに親からNGを食らって。じゃあNYに行こうってなったんです。NYは小さいし、アートに敏感だし、元々僕は絵を描くことがメインだったので、持ってたフィルムカメラでNYを撮り始めて、NYでライターをやりながら絵を描いたり、写真を撮ったりみたいのをずっとやってたんです。そしたら現地の日本人フォトグラファーさんから、「おまえの撮る写真は面白い。スタジオに入るとスキルアップするから。それが金になるぞ」って言われて。可愛い子が好きだから、シンプルに「モデルちゃんと付き合えるかも」と思って、カメラマンのアシスタントに就いたのが写真のきっかけですね。




NYのアシスタント時代
SiiiCK 良いきっかけですね(笑)。
Ryusei Sabi NYで出来たつながりとかで、仕事をもらえるようになって。自分の写真がお金になり始めたのが、NYに行ってから2年経った2019年ですね。その年の冬にブラック・ライヴズ・マターのデモが起きたぐらいに、一時帰国しようかなと思って。NYにはちょっと飽きてたので、ロンドンに行きたいなと思って。その準備も兼ねて一時帰国で帰ったら、コロナ禍になってしまって。行けなくなって、今はずっと東京という感じなんですけど。
SiiiCK 自分が写真で大切にしていることは?
Ryusei Sabi 昔はフィルムを使うことが自分らしさだと思ってたんですけど、フィルムというものに執着してただけなんです。フィルムはエディットしづらいので、フィルムライクにしてしまえばデジタルでもいいやということに気づいてしまって。そこからは自分らしさというのをあまり気にしたことがないですね。ただ、個人的に何か写真の中で絶対気にするとしたら、僕は直線が好きなので、写真の中に直線を必ず1個入れることですかね。写真って四角じゃないですか。縦横どちらかに必ず直線を入れるというのは決めてますね。個人的にスゴい数字が好きなので、6:4から7:3ぐらいの感覚で、被写体と向きは考えてて。情報が多い写真はあまり好きじゃないので、基本シンプルなものがスゴい好きですね。ごちゃごちゃしてる中でもシンプルにできることってあるんですよ。渋谷の街ってごちゃごちゃしてるじゃないですか。渋谷の街並みを撮るってなった時に、空を入れるのも抜きだし、スゴく離れるのも抜きになるので、シンプルにできる方法を考えるんです。高い位置から振り下ろした渋谷の街にするとか、被写体をその中にスゴくデカく入れるとか。写真をグラフィック的に考えてるかもしれないです。平面構成してる感覚ですね。だから僕は映像をやらないんですよ。あくまでも二次元でプリントアウトできるアナログなものが好きなんです。


領収書に写真をプリントしたアートピース
SiiiCK 自分の好きな写真作品は?
Ryusei Sabi NYの時の写真を僕はいまだに超えられないんですよ。もちろん今の方がいい写真を撮ってるつもりではいるし、同列には並んでますけど、超えられてはないなと思いますね。初動って一番強いじゃないですか。写真の背景はその街になってしまうので、NYの場合、街はすべて真っ直ぐなので、抜けが撮りやすいし、スゴくシンプルな写真が撮れるんです。アートピースとしてだったら、領収書にプリントしてる作品もありますね。元々レシートというものがデザイン的に好きなんですよ。レシートは日時、場所、買ったものが書いてあるから、思い出なんです。たまに落ちてるレシートをパッて拾った時に、「何だこのレシート?」ってなる時があるじゃないですか。「何で代官山でこの時間にリポビタンを買ってるんだろう?」ってなって、「あの時のあれじゃん!」みたいに思い出したりもする。写真を携帯とかで撮るのも思い出だと思ってるので、レシートに写真があれば、一番思い出として残りやすいなと思ったんです。
SiiiCK 確かに。
Ryusei Sabi それに、レシートって直射日光がダメなんです。レシートは感熱紙に熱でプリントするんですけど、あれは化学反応で黒くなるので、写真と同じような感じなんです。感光材を塗って、鉄に光を入れて、その光で錆びて、その錆びたところが黒くなって、それを反転させて紙に当てると、暗いところが白くなって、写真というものができる。それが写真の原点で。でも、感熱紙が黒くなる理由はいまだにわかってなくて。化学反応ですけど、ものスゴく不安定なんですよ。だからレシートは10年経ったら確実に白になってしまうんです。この作品を買ってくれた人がいるんですけど、10年以内に真っ白になってしまうんですよ。それでNFCのチップをレシート作品の裏側に入れてますね。携帯をタップするとこの作品のスキャンデータが出る。これは人間の記憶をテーマにした作品で、人間は10年覚えてられるか?ってなった時に、絶対に記憶は薄れてなくなると思うんですよ。この作品は直射日光が当たる窓際に置くと、1年経たずに消えてしまう。でも日陰に置いたり、大切に保管しておくと長く残るんです。それも人間の記憶と同じで。一昨日の夕食はどうでもいいことだから覚えてないけど、大事な日の記憶って長く残るじゃないですか。でも10年後、具体的に誰がいて、何を食べたのかを思い出すのは難しいじゃないですか。そうなった時に、携帯をタップして、写真を見て思い出すんです。これは「思い出の場所と日時と買ったものがあるレシートにその時の写真を載せる」というテーマで作った作品になります。




SiiiCK 一枚の写真の中に反転した写真が一部入っている作品もありますね。
Ryusei Sabi フィルムにはポジティヴとネガティヴがあるんですけど、みんなが目で見てるのはポジティヴ・イメージで、ネガティヴ・イメージをポジティヴ・イメージにしてるんです。この作品では同じものを撮ってるんですけど、ポジティヴの中に一部ネガティヴなものを入れてます。どの作品も一部分ずつ変えて入れてますね。これのテーマは、「ネガティヴなイメージの中にも、人間の見方によってはポジティヴに見える」で。ポジティヴとネガティヴというマインド的なものも好きなんです。バッド入ってる人は全部をネガティヴに見てしまうんですけど、その中にもポジティヴに見えるところはあるんです。自分で見る場所を選べばポジティヴに見える世界は絶対にあると思うから。目線を変えたり、視野を変えたりすればいいんです。写真はそういうのがスゴい大事になメディアなので、それを伝えるためにこの作品を作りましたね。




1% PLUSと今後のビジョン
SiiiCK 今年から1% PLUSに所属することになりましたが、どういう経緯があったのですか?
Ryusei Sabi ずっとフリーランスで一人で東京でやってきたんですけど、正直、請求書とか税金とかを含めて、自分はそういうのがダメで。請求書を忘れて溜めてたりするし。請求書が遅いとかやり直しが多いとかで、次の仕事が来ないなという印象があったりして。写真じゃないところで仕事を失うのは嫌だなと思ったんです。事務所に入りなよって言ってもらったこともあったんですけど、信頼関係があって信用できる人じゃないと嫌だなというのがスゴいあって。全然知らない人にマネージメントしてもらうというのが本当にダメなんです。どうしたらいいんだろう?ってずっと思ってた時に、BLOODY ANGLEで一人で飲んでたら、1%のアキラさんとマリアさんが飲みに来て。それまでにも二人とはお仕事をさせてもらってたし、タカくん、SANTAくん含め、みんな仲良くしてくれてたし、普通に遊び仲間だったんです。それでその話をした時に、1%はミュージック・レーベルだけど、ちょうどRed Moonsという映像クリエイターたちが入ったタイミングでもあったので、じゃあちょっとやってみようよという風に言っていただいたのが最初です。
SiiiCK 縁ですね。1% PLUSに所属して、これからはどのような仕事をやっていくつもりですか?
Ryusei Sabi 僕はファッションが好きなので、音楽の仕事もやりながら、ベースはファッションで行こうかなと思ってて。洋服ってやっぱり入り口だと思うんですよ。例えば、Supremeを着て、その服に合うヒップホップを聴く流れもあるだろうし、逆もしかりで、ヒップホップが好きでSupremeを着ることもあると思うんです。ファッションはどこのカルチャーにもついてくるものだと思うので、そこにはずっといたいなと思ってます。
SiiiCK 今後やっていきたいことは?
Ryusei Sabi 写真展は自分のタイミングでやりたいなとは思ってますね。ファッション業界は変なところがあって。僕の中ではカッコいい、カッコ良くないという基準がスゴく大きいんですけど、そこが曖昧だったり、ネームバリューだったりすることが多いくて、そうなるとファッション業界は実力社会ではないんですよね。もちろんブランディングはスゴい大事だから、こうすれば売れるとかはわかるんですけど、ファッション業界の中だけで固まってる感じがするんですよね。僕はやっぱりストリートなので、そこを少しでも交友関係を広くできたらいいなとは思いますね。今のファッション業界はカルチャーが薄いですけど、ファッションにとってカルチャーは重要な要素でもあるから。今の僕は1%という音楽のレーベルから始まったエージェンシーにいるからこそ、いわゆる広告ばかり取ってくるクリエイティヴ・エージェンシーとは違う目線を持ってますよ、というのは見せやすいと思うんです。だから、ここで僕がファッションをやるというのはめちゃ意義があると思うんですよね。

Ryusei Sabi
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