「ライヴで勝敗を白黒つけるのは難しいし、勝ち負けとかじゃないだろっていう意見もわかる。でも音で殴り合うのも面白いし、ライヴバンドならではの興行スタイルだと思う」。これは、『THE FIGHT』の主催者であるKTRがYouTubeでイベントコンセプトを説明した際の言葉である。2ラウンド制(それぞれのラウンドで先攻・後攻それぞれ30分)での2マンライヴ、観客による投票でライヴの勝敗を決する方式、そもそも勝ち負けによらないものだから人に開かれてきたライヴを試合にしてしまう一種の逆張りのアイディアなど、10月13日に開催が発表されてから当日に至るまで、おそらく観客にとって未知数な部分があまりに多かったのが『THE FIGHT』というイベントである。だが、渋谷の街頭を400枚のポスターでジャックしたゲリラ的な開催告知(SNSで告知するのではなく、ポスターを発見した人々が写真などで拡散)も含めて、このイベントの心臓になっているのは「観客が自主性をもって遊ぶイベント」の新たな形を模索する姿勢だろう。街頭に突如ポスターやヴィジョンを掲出してリリース告知や謎解きのようなインフォメーションで「考えさせる」ストリートプロモーションは、海外のビッグネームが時折駆使してSNS上で話題になることが多い。日本で言えばHi-STANDARDが『THE GIFT』のリリース告知を街頭の巨大ポスターで行い、その場所まで赴いて「自分の手足で知りに行く」という能動を促したプロモーションも鮮烈な印象を残した。しかし今回は特定のリリースプロモーションではなくイベント告知である。これはつまり、イベントの精神性——自分達で勝手に面白がって、自分達で考えて楽しめという、まさにストリートという概念の根本部分を表現するものであり、ライヴの勝敗を決することのみならず、「実際にどういったライヴになるのか?」という謎を残したまま開催されるイベントに人を招くこと自体が、参加者の能動と自治に委ねる姿勢の表れである。そして、ライヴを試合にすることによって、ただ観るのではなく自分で決める姿勢を観客に求めた。それが『THE FIGHT』というイベントの正体なのではないかと思う。2024年末に幕を下ろし、おそらく本イベントのアイディアの母体になったとであろう『REDLINE』もそうだった。その本筋にあるのはいつでもストリートの精神であり、自分らの遊び場を自分達自身で自治する姿勢。言うまでもなく、その精神はパンクやハードコアといった音楽の根本をなすものだ。

さらに、上述した精神性を持つイベントの第一弾にSiMとMY FIRST STORYがブッキングされたこともまた絶妙だ。音で殴り合うというテーマは、たとえば盟友と呼べるような2バンドの対バンでは叶わないだろう。あるいは誰もが知るような喧嘩エピソードを持っている2バンドの対バンでも、それはそれでライヴ外のあれこれに対するいたずらな興味をそそるだけだろう。そういった意味で、KTRの言葉を借りれば「仲が悪いわけではない。でもこれまで近づいてこなかった」2バンドの邂逅は、非常にフラットなライヴ合戦を叶えるという意味でも、そして観客の「観たかった、でも全然観られなかった」という渇きを潤す意味でも、強烈な盛り上がりに直結する事件性しか感じられないものだった。MY FIRST STORYがデビューした当時、HiroがサングラスをかけていたことをMAHがREDLINE関連の動画でいじったのが2013年(この件についてもKTRによるイベント解説動画を参照してください)。そこから12年間、エンターテイメント性のあるビーフに発展することもなく、「なんとなく距離があるな」くらいの印象のまま、それぞれの道をガシガシと猛進してきた2バンドによる対バンライヴ。遠慮なしの殴り合いが生まれること必至、すなわち最高にアグレッシヴなライヴの応酬になることが確実。キッズにとって、それ以上の幸福はないだろう。
実際、それぞれのライヴは異様な空気と異様なステージの上で行われた。センターステージにはあらかじめ2バンドのセットが向き合う形で置かれ、会場後方から最初にMY FIRST STORY、続いてSiMがステージに向かって入場。登場時に左右からブシャーッと吹き出す膨大なCO2は完全にプロレスのそれで(プロレスを敬愛するSiMのMAHとGODRiは特に興奮しただろう)、ステージ上で一瞬だけ両者が向き合った後にすぐさま1st Round先攻のMY FIRST STORYのライヴがスタート。「あの時サングラスがカッコいいと言ってもらったマイファスです!」「俺も子供じゃないからさ、あんな動画ごときじゃ怒ってねえよ。でもあんな子供っぽいことじゃなく、アーティストらしくステージ上で勝負つけようぜ」というご挨拶を交えながら<ダレがホンモノ?/ドレがホンモノ?/ナニがマガイモノ?>と吐きながら逆境を超え続けていく意志を歌う“絶対絶命”を1曲目に持ってきた時点で、ゴリゴリにSiMを煽っているのはもちろん、何より今日こそ超えたいものがあるという決意が伝わってくる。



「ライヴは勝ち負けじゃないってよく言うけど、確かに仲いいバンド同士だったら勝ち負けをつける必要はないのかもしれない。だけど12年前、俺らの呼び名がまだ『ワンオク・Takaの弟』だった頃、あの時の俺らじゃSiMには到底敵わなかったと思う。だから死ぬほど悔しかったよ。何より、バカにされてもライヴで見返すだけの力がない自分達が一番悔しかった。だけどあれから必死こいて成長して、今日は文字通り同じステージで顔を見合わせて、ようやく射程圏内まで入ってきたんだよ。だからこそ『THE FIGHT』に意味があんだろ? ……正直、これまで兄貴以外は眼中になかった。でも一昨年、兄貴と東京ドームで対バンして、超えるべき相手は自分しかいないとわかった。だから今日は、あの頃悔しかった自分を超えるために、『今のお前らはSiMの首をとれるくらいになってるんだぞ』って自分自身に言えるように、どうしたって負けるわけにいかねえんだよ!」(Hiro)
そんな言葉から“アイデンティティー”、“ALONE”を立て続けに放ち、1セット30分という構成も関与して、緩急ではなく一直線のエモーションをぶつけるだけのライヴを展開。言葉を乱射しながら突き進む姿は、周囲の目、レッテル、望まない肩書きといった外的なものに勝たなければ自分でいられなかったバンドの根源的なエネルギーを感じさせるもので、ライヴが進むごとに、SiM相手の取っ組み合いというよりも「人生は勝ち負けではない」という綺麗事だけでは生きられない人間の直情そのものが巨大な熱になって膨らんでいった。



そこから間髪入れずステージに現れた、1st Round後攻のSiM。登壇するなり「一応ルール確認です。好きなところでファイヤーボールとかCO2のプシャーッとか使っていいんですよね? ……お断りします! そんなもん使わなくても余裕だろ!」という横綱の圧勝宣言。さて、オープニングナンバー“Jack. B”の冒頭で叫ばれる<FUCK OFF>は誰に向けられたものだろうか。MAHが絶叫する横でSINとSHOW-HATEがちょっかいを出し合い笑顔でステージをうろうろする姿もいつも通りで、あくまで通常運転のまま勝負に挑む辺りに静かな怖さが漂う。続けて“Amy”でツーステップの嵐を巻き起こし、“Faster Than The Clock”では巨大なサークルピットを指揮。ヘヴィロックとストリートパンクとレゲエを背骨に持つSiMの音楽はそもそも急激な緩急を搭載しているわけだが、30分というショートセットではその個性がより一層際立つ。嵐と凪が暇なく訪れる楽曲はいつしか異様なカオスを生み、モッシュなのかダンスなのかも判別がつかない動きが多発する人間曼荼羅の完成である。
「MCなんかないよー!」(MAH)
MAHの言葉は一見、ただただこのライヴの勢いを加速させるためのものにも思える。しかしおそらく、曲と同時に言葉を乱射し続けたマイファスのライヴに対するカウンターパンチとして放たれたものだろう。冒頭で特効を「お断り」したパフォーマンスも含めて、あくまで音楽一発で喰らわせてみせるという意思表示が端々に見えるライヴであり、特異なコンセプトのもと行われるイベントであることも意に介さず、「ただのSiM」ですべてをなぎ倒してこそ勝ちなのだというド直球のアクトである。“GUNSHOTS”ではモンキーダンスの波を巻き起こし、“BASEBALL BAT”では<K-I-L-L Y-O-U>の大合唱を生み、“Blah Blah Blah”では<oh na na na>の呪文で幕張メッセを覆い、“PANDORA”のブラストビートで一気にすべてを破壊し、漆黒のヘヴィロック・ミクスチャーが持つ音楽的な細胞をすべて注ぎ込んで、まさに音楽だけで幕張メッセを喰らい尽くしていった。




そして2nd Roundの先攻はSiM。前ラウンドから立て続けのライヴではあるものの、つかの間のインターバルが挟まれたことによって、まさに格闘技の試合を観戦しているような感覚に陥ってくるから面白い。
「勝つとか勝ちたいとかじゃなくてさ、勝っちゃうのがSiMというバンドです。まあ30分のライヴだから、“KiLLiNG ME”を10回やれば勝てちゃうのよ。だからここからは“KiLLiNG ME”のみでいきます。3分の曲だから、理論上は10回できるでしょう。“KiLLiNG ME”を10回、覚悟決めてよ? ……このラウンドも、ファイヤーとかCO2を決まった回数使えるらしいんですよ。でも我々にそんなものは必要ない。音だけでぶっ潰しますんで、よろしくお願いします。行けるか幕張! 2nd Round始めます!」——というMCから“KiLLiNG ME”に雪崩れ込んで口火を切ったSiMだったが、なんとステージの際から無数のファイヤーボールが噴き上がり、MAH自ら「使うんかーい!」と突っ込んで、ヘヴィな音塊の中で大爆笑を巻き起こす。「ファイヤー? 使うでしょ、そんなん。使えるもんあったら全部使うわ!」という茶番は、ラウンド制という「区切り」がある構成を巧妙に駆使したユーモアだ。真剣勝負は当たり前。音の威力を磨くのも当たり前。しかしそれだけで終わらず、笑いも熱さも挿して感情のうねりもまた生み出していくのがSiMのヤバさである。“KiLLiNG ME”を鳴らし終わるやいなや再び“KiLLiNG ME”のイントロが鳴った瞬間は会場全体が「マジかよ」の表情を浮かべたが、その演奏を止めて「勝つとわかってる勝負をしたいわけじゃない。ギリギリの勝負をしたいのよ。……MY FIRST STORYも凄く気合いが入ってて、ライヴをちゃんと観られてよかったです。だけどそれをプチっと踏み潰して勝っちゃうのがSiMなんです」と話すところもまた、対バンのヒリヒリ具合を加速させる。そこで繰り出したのは“The Rumbling”。近年のSiMの世界進出のきっかけと追い風になった1曲で一気にカタをつけにきた。さらに“DO THE DANCE”で狂人のダンスフロアを描き、ステージを降りてフロアを煽りまくるMAH自身がグングンと昂ぶっていく。
「Hiroが17歳くらいの時にcoldrainのライヴに来ていて、Masatoが『Takaの弟なんだよ』って紹介してくれて。『僕もバンドをやりたいんです』って言ってて。で、マイファスがデビューした時にいきなりサングラスをかけてたから、『こいつ、そっちの人か』と思ってですね。それでかなり陰湿ないじり方をしたのは大人気なかったと思います。でもHiroに訊きたい。今、新人のバンドがサングラスをかけて話しているのを見たらどう思うのかと。SiMが射程圏内? そういう位置になった今、新人のバンドがサングラスをかけてたら『きみ、サングラスをとりなさい』と思わないか? まあMY FIRST STORYとの共通点は『ケンガンアシュラ』のタイアップをやったことくらいしかないんだけど、これから繋がりができるかもしれないし、できないかもしれないし、どっちでもいいや(笑)。ということで『ケンガンアシュラ』の曲やります」(MAH)
そこから披露した“RED”が凄かった。90年代ヘヴィロックの洗礼を受けながらポストハードコアもパンクもレゲエも同一線上の音楽として食ってきたSiMにしか描けないラウドロック絵巻である。お琴の音とルーツのレゲエを混ぜてしまう不気味なアイディアと突き抜けるサビのコントラストはこれぞSiMといった調合具合で、真っ赤に染まったステージ上のMAHはまさに悪魔の様相で、静かに心の胸ぐらを掴んでくるのだった。ラストはもういっちょ“KiLLiNG ME”を叩き込み、最初から最後までSiMにとってのストレートを投げ込み続けるライヴだった。



2nd Roundの後攻として勝敗を決すステージに登場したMY FIRST STORYは、“REVIVER”でライヴをスタート。特に『S・S・S』以降は徐々に音楽的な幅を拡げ、Hiroの歌心を中心にしたソングライティングに変貌してきたマイファスだが、今日のライヴは、幅を見せる構成力よりもポストハードコア色の強い曲を軸にしたものになっている。これはリングの上で殴るための攻撃力を求めた結果なのかもしれないが、それ以上に、「あの頃」の自分に打ち克つためのライヴをすることが真の勝利だと悟ったがゆえのことでもあるのだろう。“REVIVER”で歌われる再生もまた、挫折や悔しさに折れないための自分に捧げられたものなのだ。「しょうがなく勝っちゃうみたいな言い方をされてましたけど、とても練習されてましたね、SiMさん」という煽りを入れてくる辺りはHiroらしいが、勝ち負け自体に意味があるというより、勝った実感からしか生まれない未来もあるという事実を求めてライヴをしているように見える。それはSiMもそうだ。切るか切られるか、殺すか殺されるかの真剣勝負は、死に切るためにあるのではなく修羅場の先を歩む強さを得るためにあるのだ。“MONSTER”、“蜃気楼”ではうねるようなグルーヴで魅せ、何回でも<死ねないよ>と歌うHiroの姿はまさに、そういったことを感じさせるものだった。
「“KiLLiNG ME”を10回やれば勝てるなんて言ってましたけど、メジャーな曲なんて1回やりゃあ十分なんだよ。本当の『メジャーな曲』、聴かせてやるよ!」——という言葉から披露された“I’m a mess”はギターの小気味いいカッティングがダンサブルな感覚を生み、「これぞメジャー!」と叫んでいたずらっぽく笑うHiroの姿もあいまって、ライヴが進むに従い、肩の力を抜いてこの場を真っ向から楽しむ様子が感じられるようになっていったのだが、やっぱり「サングラスかけた新人が出てきたらどう思う?って言われたけど、このルッキズムの時代、そんなことも言ってられないわけですよ。その証拠に、目の周りを真っ黒に塗ってネクタイしてる人と対バンしてるんです。彼らは巨人のつもりかもしれませんが、我々からしたら、あれは鬼です。とっても小さな鬼です。そんな鬼を退治するための曲を持ってるんですよ」と言って突っかかり続けるところがマイファスらしい。その「鬼」にかけてプレイされた『鬼滅の刃 柱稽古編』の主題歌“夢幻”、さらには“モノクロエフェクター”と“不可逆リプレイス”を畳み掛け、最後の最後まで勝負にこだわり続ける攻撃的なライヴだった。






そして当初から発表されていた通り、ライヴの最終的な勝敗は観客に委ねられた。結果は55%がMY FIRST STORYに、45%がSiMに投票するというもので、軍配はMY FIRST STORYに上がった。両者がステージに上がって投票結果の発表を見守り、敗者となったSiMは結果を見てステージを降板。勝者となったMY FIRST STORYがアンコールを任されたのだが、「この曲しかありません」と言ってプレイし始めたのは、なんと“KiLLiNG ME”だった。SiMのライヴでは“KiLLiNG ME”の間奏中にオーディエンスからギターを弾ける人物を募集するひと幕があるのだが、それを意識してか「完全に同じようにコピーしても面白くないから、歌える人を募集しようかな」という言葉を挟んだHiro。そして「適任者がいるんで、呼んできます!」と言ってステージを降りると、なんと彼が連れてきたのはMAHだった。散々煽り合い、散々殴り合い、その結果がまさかの“KiLLiNG ME”のデュエットとは。これ以降は二度と見られないであろう共演に、観客もワケのわからない雄叫びを上げている。そして何より、スポーツ的で綺麗な「ノーサイド」というよりも、勝ちと負けをピュアな興奮で超えていくところがロックバンドらしいし、ライヴの面白さなのだと痛感するシーンだった。さらに「僕らには、切っても切り離せないバンドがいる。たとえば、僕らのバンド名をつけてくれた存在とか」という言葉からPay money To my Painの“Weight of my pride”をカヴァー。最後の最後まで打ち合ったからこその、熱狂一発のユナイトである。繋がらなくても、仲よしこよしでなくとも、音楽の血はそれぞれが紡いでいく。人生はレースじゃないし、勝ち負けで測れるものじゃないけど、それでも勝ちたい。そして、何に打ち勝ちたいかも人それぞれであり、その勝負を繰り返しながら、一瞬でも笑えたら最高だ。そんなメッセージに収束されていくライヴで、それが美しく見えた。で、それを説明することもなく、小綺麗にまとめることもなく、ただの打ち合いで伝えているところにこのイベントのロマンがあった。
文=矢島大地
写真=SHOTARO
スズキコウヘイ

JMS
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