’80年代には弟のマイク・ミュアー(スイサイダル・テンデンシーズ)も加わって、ヴェニスからカルチャーを発信していくリーダー的な存在となった。スケートボードを軸に、音楽、アート、さらにはスタイルとアティテュードが加わったのが、DOGTOWNというカルチャーである。
このSiiiCKの連載では、DOGTOWNを愛する様々な人たちに登場していただき、スケートボードとカルチャーのつながりとルーツを紐解いていきたいと思う。
第11回目は、HIROTTONが登場。
HIROTTONは1986年生まれ。パンクとスケートボードをルーツに持ち、その精神を作品で体現し続けるアーティストである。
美術大学卒業後に渡英し、ロンドンで約4年間のアート活動を経て、2012年に帰国。以降、パンクやスケートボードから受けた影響を軸に、生物や自然など身の周りの環境、そしてポリティカルなテーマを独自のフィルターを通して表現し、国内外で活動を続けてきた。Heroin Skateboardsを始め、TOY MACHINE、CREATURE、VANS、PUMAなど数多くのブランドへアートワークを提供。個展も精力的に開催する他、自身のアパレル・プロジェクト「PARADOX」をD.I.Y.精神のもと展開している。
東京にあるHIROTTONのスタジオを訪ね、いろいろ話を聞かせていただいた。
Photography: Ryusei Takano
アートの入り口とロンドンの4年間
SiiiCK アート、カルチャーの入り口はどこでした?
HIROTTON 自分は姉がいたので、姉が当時観てた『シド・アンド・ナンシー』の映像の影響で、最初はセックス・ピストルズから入りました、おそらく小学高学年くらいだったと思います。中学ではあまり周りにパンクとかを聴いてる人はいなかったので、一人でTSUTAYAなどでレンタルしたりしてディグってました。高校に入ると、いろんな中学が合併するので、その時にいろいろなカルチャーが自分の周りに入ってきて。メロコアが流行ってたし、スケーターのヤツもいて。その時にスケボーを始めましたね。高校を卒業した後は大阪芸大に行ったんですけど、CHOPPERさん(プロスケーターの中村泰一郎)と知り合って。アメ村の周りでずっとスケボーをしてました。そこからもっと音楽を聴くようになって、ハードコアパンクにも深く入っていきました。
SiiiCK 大阪芸大に行くほどですから、その時から絵をやりたかったのですか?
HIROTTON いや、絵は描いてなかったんですよ。大阪芸大にはデッサンで入ったんですが、芸大に行くために少しデッサンを当時習った程度で。芸大では金属の溶接をメインにやっていました。溶接でデカいスカルや椅子を作ったりとか、そういうことをやってたんです。でも、周りにOsaka Daggersがいたので、ライヴに一緒に行ったり、イギリスのハードコアを好きになったりして。パスヘッドのことも知ったし、そういうものにいろいろ影響を受けるようになりましたね。大阪芸大を卒業した後は、ロンドンに住んで。その時に絵を描き始めたんですよ。
SiiiCK スケートボードもパンクもアメリカのイメージがありますが、ロンドンを選んだ理由は何かあったのですか?
HIROTTON CHOPPERさんがHeroin Skateboardsのプロなので、Heroinのボスのフォズ(マーク "フォズ" フォスター)がよく大阪に来てたんですよ。それで知り合って。あとは、元々UKのパンク、ハードコアが好きで。CrassとかカオスUK、ディスチャージが好きだったんですよね。大阪芸大の時に、ロンドンに一回行ったんですけど、それが初めての海外で。そこでどっぷりハマってしまって。大学を卒業してからは、半年ぐらいめちゃめちゃバイトして。ロンドンにワーホリで住み始めて、結局4年くらいいたんですよね。元々、芸大で溶接でいろいろ作ってたのが、施設がなくてできなくなって。それで絵を描き始めたんです。たまたま周りに、スケーターで絵を描いてるヤツが多くて。フォズもそうなんですけど、Heroinのライダーには絵を描いてるヤツが多くて。それで、23~24歳の時に描き始めたのが最初です。
SiiiCK その4年間のロンドンはけっこう大きかったんですね。
HIROTTON そうですね。あれがなかったら、たぶん今みたいなことはやってなかったと思います。
SiiiCK Crassのメンバーでアートを手がけていたジー・バウチャーにも会いに行ったんですよね。
HIROTTON 家に泊まりに行きました。それもたまたまジーが展示をやってて、そこに行ったら会えて。それで話をしたんですけど、あの人たちはパーマカルチャーと呼ばれる、人と自然が共存するための考え方を実践的に学ぶワークショップみたいなものを、彼らの本拠地のダイヤルハウスでやってるんですよね。その時の俺はいろんな国籍の7人くらいで一つの家をシェアして生活してたんですけど、一緒に住んでたイギリス人の一人がけっこうナチュラリストで。ジー・バウチャーを知ってて、そのワークショップに行ってたんですよ。彼が俺の部屋に来た時に、Crassのポスターを見て、「えっ、知ってるんだ?」ってなって。つながってるし、家に行けるかもっていうので、家に行ったんですよ。ほぼ自給自足の生活をしていて、音楽やアート、またその時ちょうど日本の3.11の後だったので、そういった話とかいろんな話をして、猫がたくさん住んでて。あれは楽しかったですね。
SiiiCK スゴい経験をしていますね。
HIROTTON Crassのアートには影響を受けてますね。元々メッセージ性が強いものはスゴく共感ができて。当時のロンドンでは、パンクの若者たちの中に、スクワットと呼ばれる空き家を不法占拠して暮らす人が多かったんです。そういうのがまだ合法で、俺が住んでた時に違法になったんですよ。そういうところにも半年住んでました。あれはスゴい刺激的でしたね。

自身のアートの追求
SiiiCK ロンドンに4年いた後、日本に帰国するわけですよね。そこからはどのように絵を追求していきました?
HIROTTON ビザが延ばせなくなったので、日本に帰ってきたんです。すでに絵は描いてて、ロンドンで一回個展をやったんですけど、本当に駆け出しで、いろんなことがまだわからない状況で。日本に帰ってきてからちゃんとやろうと思って。フォズに「Heroinのデッキを描きたい」って連絡したんですよ。でも、最初は断られて。まだスキルが足りなかったんですね。でも、個展をやり始めて。最初はNO.12 GALLERYでやったんですけど、いくつかやっていくうちに、逆にフォズから、「デッキ、描いてみる?」って連絡が来て。それで、チーム・デッキを最初に描くことになって。そこからいろいろつながりが出来て。いろんなデッキ・カンパニーで描くようになりました。それが2012~2013年で、Heroinのデッキは今も描いてますね。
SiiiCK そこから活動はどう広がっていきました?
HIROTTON 海外には定期的に一人で行くようにしてるんですけど、それまではヨーロッパが多くて。その時はアメリカに対してそこまで興味はなかったんですよ。あまりアメリカに友達もいなかったし、わからないというのもあって、行かなかったんです。でも、ロンドンにいた時に、一回だけアメリカに行ったことがあって、ちょっと面白いかもってなって。アメリカにも定期的に行くようになりましたね。オーシャンサイドに友達ができて、アーティストやスケーターと仲良くなって、壁画も3個くらい描きました。周りには、コリン・プロヴォストとかプロスケーターもけっこういて。デッキもCREATUREとかTOY MACHINEのものを描くようになって。それくらいから、LAにも行くようになりました。LAのBrooklyn Projectsで働いてたタケオに教えてもらって、Excelのライヴにも3回くらい観に行きましたね。
SiiiCK Excelが2018年に来日した時に、RVCA SHIBUYA GALLERYで行われた、Excelのアートショーに参加しましたよね。
HIROTTON USUさん(USUGROW)が誘ってくれたので、参加しました。USUさんとは、日本に帰ってきてから、共通の友達の紹介や展示に行って話をして、飲みに行って、だんだん仲良くなって。その時はそれで誘ってもらったという感じです。USUさんはBrooklyn Projectsに原画が飾ってあるし、壁も描いてるし、海外でこんなにやってるのはスゴいなと思って。憧れたし、自分でもこういう動きをしたいなと思ったんです。そういうのもあって、定期的に海外に行くようにして、いろいろな人とつながって。アメリカは、日本に帰ってから逆に惹かれていきましたね。HeroinもBaker Boysに入ったので、フォズもLAに住んでるし、いろんな人が近くなったんですよね。それでアメリカに行くことが増えたんです。
SiiiCK 自分のアートの中で、音楽、スケートボードから受けた影響ってどのようなものですか?
HIROTTON 元々絵を描き始めた最初の方から、Tシャツにすることを意識して描いてるんですよ。それで毎回そういうデザインを描いてしまうんです。大きくフォントが入ったりとか、色数を絞ってシルクで作れるようにとか。最初に自分が描いた絵も、ロンドンのシルクスクリーンの施設に行って、そこで自分で刷ってTシャツにしました。でもそれは、やっぱりバンド、音楽、マーチャンダイズからの影響がめちゃめちゃ強いからで。あと、スケートのグラフィックのスカルにしても、ハードコアとも近いし、自分が絵を描いてなかった時から見てたものなので。あまり意識はしてなかったんですけど、そこの影響はめちゃめちゃ受けてたと思います。逆に言うと、それ以外はあまり考えられないというか(笑)。そういうスタイルで描き始めたし、周りもそういう感じだったし。自分は美術学校とかでオイルペインティングとか絵を習っていたわけではなく、ストリートからアートの世界に入ったので。
SiiiCK 大阪芸大で学んだことは生きています?(笑)
HIROTTON 芸大で学んだことで今に生きていることは、技術的なことはあまりなくて、納期を守るとか、限られた時間の中で自分の作品を納得いくクオリティで完成させるということです(笑)。
SiiiCK スケートでもパンクでも、スカルは人気のモチーフですよね。絵のモチーフに関してはどう広げていきました? 動物の描き方がスゴく面白いのですが。
HIROTTON 動物は元々ずっと好きで。スカルは最初から描いてたんですけど、動物も並行してよく描いてて。あと、古い靴、古い時計、ヴィンテージのカメラとか、古いものがけっこう好きで。そういうものも最初から描いてたんですよ。最初は白黒の絵が多くて、紙に細いペンでディテールを細かく描くみたいなことを意識してて。でも、個展とかいろいろやり始めていくうちに、どんどんキャンバスに描いてみたりとかするようになって。そうすると、筆を使ってみようとか、塗料を使ってみようとかなっていって。キャンバスの作品は全部筆で描いてるんですよ。昔はもっとメッセージ性が強い、Tシャツに落とし込むためのデザインが多くて。ここにある戦車の絵は、けっこう昔に描いたものですけど、こういう反戦的なメッセージとかが多かったんですよ。今はもうちょっと技術的なことに興味があるというか。画材だったりとか、発色とか、一つひとつのラインをもっと上手く出したいとか。そういう感じになってきてますね。
SiiiCK 個展のスペース内に小屋を作って、その内側全面にも描くという、立体作品のアプローチもしていますよね。
HIROTTON そういうのにも興味が出てきています。去年の展示でも小屋を建てたんですけど、平面で自分が描いてるものを3Dで形にしたくて。そういうのは継続してもっとやっていきたいですね。


DOGTOWN、活動のインスピレーション
SiiiCK DOGTOWNに関しては、どのようなイメージを持っていますか?
HIROTTON DOGTOWNはスイサイダル・テンデンシーズから知りましたね。その時、DOGTOWNのカルチャーがあるというので、けっこうディグって。映画の『ロード・オブ・ドッグタウン』もその時に観ました。
SiiiCK Excelのアート展の時に、DOGTOWNのアートを手がけたマイケル・シーフの原画も展示されていましたよね。
HIROTTON しびれますよね。原画を見た時に、オーってなりました。スイサイダルがVOLCOMのイベントで来日した時も、新木場に観に行ったんですよ。その時にバンダナを買ったんですけど、今日はこれじゃんと思って(笑)。
SiiiCK いろいろスケートとパンクのアートを見てきた中で、DOGTOWNが他とは違うところってどこだと思いますか?
HIROTTON 言い方が合ってるかどうかわからないですけど、自分の中ではけっこうラフな感じという印象が強くて。ラフだけど、そのカルチャーが一発で伝わる感じじゃないですか。その熱量が見てわかるというか。Heroinのライダーの絵にしても、もしかしたら技術的には上手くはないんですけど、スゴく描き込んでて、その熱量はめちゃくちゃ伝わってくるんですよ。そういうのがいいなと思ってて。自分もちゃんと絵を勉強したわけじゃないから。描き方が間違ってるとか、そういうのはわからないけど、好きなので、ずっとやってるんですよ。そういうところは似てると思いますね。
SiiiCK 現在、音楽から、スケートボード、アパレル、飲食店まで、多様なジャンルで精力的にアートの活動をされていますよね。インスピレーションの源はどこにあるのでしょうか?
HIROTTON 元々、趣味でやってたことなので。日本に戻ってきたばかりの時は、普通に仕事もしてたんですよ。働きながら、隙間時間で絵をやってたんですけど、好きだからやってたんです。好きだから苦じゃないし、楽しいことなんですよ。今も毎日ずっと描いてるんですけど、全然苦にならないですね。
SiiiCK スランプになったり、絵から遠ざかりたいと思ったことは?
HIROTTON スランプというか、アイデアが浮かびにくいっていう状態は、あるはあるんですけど、今でも週に1回か2週に1回、スケートをして、みんなで酒を飲むので、そういうのが息抜きになったりとかします。あと、東京に住んでると、ジェシーくん(ESOW)とかUSUさんがいるので。ジェシーくんはだいぶ年上だけど、スゴいペースで展示をやるじゃないですか。あの人はずっと描き続けてるし、あれだけ毎日飲んでるのに、あれだけ仕事もしてて。スゴい尊敬してますね。そういうのが刺激になるし、自分はまだまだ足りてないかもって思うこともありますね。9月にはロンドンでグループ展があって、それにキャンバス作品を出すんですけど、ジェシーくん、USUさん、野坂さん(野坂稔和)も出すんですよ。そういう展示に一緒に肩を並べて作品を出せるというのが、自分としてはスゴく光栄ですね。

現在の活動について
SiiiCK 今取り組んでいる活動についても教えてください。
HIROTTON 来年ロンドンで個展が決まっていて。今はいろいろ仕事をやりながら、それを進めてる感じです。最近は動物の騙し絵みたいなものを描いてるんですけど、昔の国芳(歌川国芳)とかのスタイルにインスパイアされてて。たくさんいる猫を引きで見ると一匹の猫に見える、そういう絵の展示をやろうかなと思ってます。
SiiiCK 動物が好きな理由は何かあるのですか?
HIROTTON 小さい時から、虫とかが本当に好きで。カブトムシとかクワガタを飼ってて。小さい時は虫博士になりたかったんですよ(笑)。だから虫の名前や生態とかもかなり知ってるんですけど、それが変わってないというだけです(笑)。
SiiiCK そこから虫だけでなく、哺乳類も好きになったんですね。
HIROTTON TV番組でもそういうのをめちゃ観てて。『生きもの地球紀行』を楽しみにして観てるような子供でした。それがそのまま今も続いてる感じですね。
SiiiCK 先ほど話した、小屋の立体作品も含めて、最近の自分の中での新しいアプローチの追求はありますか?
HIROTTON 3Dはもっとやりたいですね。ただ、一人だけではできないことがけっこう多いので、周りの人に手伝ってもらったりしてます。小屋にしても、大工をやってる友達に手伝ってもらって作ってて。展示でああいうものがあると、空間が面白くなるじゃないですか。そういう立体物の展示ももっとやりたいですね。まだ試せていなく、先の話になるかもですが、最近はオイルペインティングにもスゴく興味があります。
SiiiCK シルクスクリーンも自身でやられていますよね。
HIROTTON 元々ずっと家で個人でやっていたのですが、数年前にHAILPRINTSというプリント会社をスケーターの友達と立ち上げました。場所を借りて回転台も取り入れて、クオリティが一気に上がりました。自分は最近はなかなか手伝えてないこともあるのですが、そこで信頼できる仲間が自分のPARADOXのものも刷ってるし、友達のブランドのものなんかも刷ってます。
SiiiCK これまでの活動を振り返って思うところはありますか? このカルチャー全体が広がっているし、表現する場や機会もかなり広がってきたと思いますが。
HIROTTON 俯瞰で見れてはいないです。描くことを好きでずっとやってる感じで、そこの部分はあまり変わってなくて。それがどうなってるかは、正直あまりわからないです。2022年にアートブック(『PARADOX』)を出したんですけど、それは活動10年の区切りで。その時にいろいろ振り返って、一回、昔のデータとかを全部探したんですよ。その10年はあっという間だったんですけど、いろんなことがあったので、スゴい長かったようにも感じますね。でも、根本の絵のスタイルはほぼ変わってなくて。今もこれを続けられてるのが、やっぱりうれしいことだし、周りの環境にもいろいろ感謝してます。一緒にスケートしてる友達とか環境がいなかったら、今も続けられなかったと思うので。
SiiiCK ちなみに、今一番よく聴くパンク・バンドは?
HIROTTON 最近はライヴを実際に観れる、近くのバンドにリアリティを感じてます。ずっと好きなんですけど、蕨のNO ALLとか。OLEDICKFOGGYとかSAIGAN TERRORも大好きですね。昔は海外のバンドにどっぷりハマって、いろいろ観たり聴いたりしてたんですけど、最近は身近でライヴが観れる、生活にリンクしてるバンドがいいですね。今も現役でパンク・バンドをやってる友達がいるのも大きくて。バンドっていつ終わるかわからないから、続けてるバンドはリスペクトですね。フィールドは違えど、自分も刺激も受けるし、モチベーションにもつながるんですよ。


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